富士登山について思うこと・・・

 今年(2023年)の夏は今まで外出を制限してきた多くの人たちが富士山に向かっているとの話しを聞きます。環境省の発表によると過去10年の開山日から7/17までの間で最も少ない年は登山禁止となった2020年の0人、2021年の8,031人、一番多かった年は2017年の43,074人、そして2023年は41,518人だと7/20に発表されました。最終的に今年の登山者数はどうなるかはわかりませんが過去10年で1.2を争う賑わいだということは間違いありません。(全体の70%近くが吉田口から)
 
 僕も今年は遠征計画があるためトレーニングのため何度も富士山を訪れていますが、登山者が多いという印象を受けます。

 今年はマスコミも富士山に関する多くの報道をしています。その際に使われる言葉が『弾丸登山』『軽装登山』『ついで登山』などです。その中の『弾丸登山』とは、一般的に「五合目を夜間に出発し、山小屋に泊まらず、夜通しで一気に富士山頂を目指し、すぐに下山する登山形態」などと言われていますが、何もこれは最近行われているわけなく、ずいぶん前から行われていたことですし僕自身何度もそのような登山をしています。

 最近、マスコミは富士山を目指す全ての人に向けて弾丸登山はやめましょう!危険行為だ!と発信しています。

 富士山は観光登山としても行きやすいということもあり、また日本一ということで「一生に一度は登りたい山」と国内外から人が集まります。

 観光としての登山を行いやすい環境になったのは道路が開通し手軽に5合目まで車で上がれるようになった頃からなのでしょう。僕自身子供の頃に両親に連れて行ってもらった富士山はまさに観光登山で弾丸登山でした。

 両親は夜な夜な運転し僕を登山に連れて行ってくれましたが、寝不足の影響からか途中、高山病を発症し8合目でリタイヤ、まだ元気だった小学生の僕だけが単独山頂へ行って親元へ戻ってきたという登山でした。

 そしてこの弾丸登山こそが僕の山への興味のスタートとなったわけです。親が行けず自分だけが山頂の鳥居をくぐったたことは当時の僕には何とも嬉しいものでした。

 今も昔も弾丸登山を決行して事故を起こす人もいますが、多くの人は大きな問題なく下山しているのでしょうから、問題を起こさなかった登山者は終わってみたら「ぜんぜん大丈夫だよ」となりやすいでしょう。僕もその一人だったかもしれません。実際にはバテバテのギリギリ登山だったとしても、実際には高山病になっていたとしても・・・さらにその先、他の登山をすることもなく経験を積まなければ過去の成功体験から「富士山なんて簡単だよ。」と言ってしまうのかもしれません。
 
 そこで重要なことは確かな山の知識と最低限の体力ではないでしょうか。知識の中には高山病についての知識も含まれます。いくら体力があっても高所への順応に時間がかかる人もいるのです。そして知識があっても最低限富士山を安定して歩ける体力が必要です。今時は情報はたくさん出ています。その中にある正しい情報を選択してもらいたいと思います。

 富士山へ登るために目安となるコースタイムは一番距離の短い富士宮ルートで登り約5時間半、下り3時間50分、合計8時間50分です。起点となる水ヶ塚の駐車場から6時のバスに乗ると5合目には6時半頃、そこから登山を開始すると午後3時20分~午後4時に下山できる計算になります。これなら無謀な計画には見えません。

 しかし、全く登山をしていない人がこのコースタイムで歩けるのでしょうか?
そもそも約9時間歩くことができますか?さらに富士山では高山病になる方も多く(なっていることに気づいてない人も多い)少し歩ける人、体力に自信がある人でもこのタイムで歩けないことがあります。歩けたとしても余裕があったのでしょうか?何かアクシデントがあっても余裕ある対応ができる状態だったでしょうか?

 ひとつ実際の事例ですが、登山を始めて4年目の40代女性、始めたばかりのころは斜度の弱い4時間程度のルートもコースタイムでは歩くことができなかったのですが、低山からスタートし年に何度かの登山と自宅でのスクワットで補助トレーニングを続け、最近ではコースタイム内での歩行や、1日10時間程度の歩行もできるようになり、今年初めて富士山に挑戦しました。今まで「富士山は大変だろうから無理」と思っていたようですが、ずっと見てきた僕には何の心配もなく富士登山へ連れていくことができました。出発前日の晩には十分な睡眠をとってもらい結果は登りで3時間45分、下り3時間、合計6時間45分で、時間にゆとりがあったので山頂でもゆっくりと過ごすことができました。
 登り終えた彼女の印象は「辛くなく楽しく登れた」でした。更に良かったことは彼女はこの速さで登っても高山病の症状が出なかったことです。今までの3000m級登山でも症状が出ていなかったことを確認できていたことも良かったのです。

 速度が早ければいいということを言いたいのではなく、特に将来激しい登山を目指しているわけではないならば、余力ある登山をしてもらいたいのです。日頃8時間超えの登山を余裕をもって行動できる方であれば富士山という日本で最も標高の高い山に向かうことに体力的な不安もなくなるでしょう。そこに高山病への備えや知識をつけ、自分の状態をよく理解して臨んでもらいたと思います。

 このゆとりがある状態は決して弾丸登山にはならない(仮に世間でいう弾丸登山を実行しても問題があるとは思えない)と考えます。自分の中でコントロールできている状態であれば危険度はぐっと下がります。
 
 多くの観光登山者を見かける富士山ですが、そんな中にも、しっかりと富士山を目指してこられた登山者や、ガイド同行の登山で安全を確保されている方もいらっしゃいます。富士山のために以前から計画的にガイドを依頼されていてステップアップの末、富士登山をむかえた方もいます。他にも、トレーニングのために登られている方もいます。弾丸登山を一律ダメ!と決めつけるべきではないように思います。大切なことは自分の登山を自分でしっかりと考えて行動することではないでしょうか?

 注意喚起は大切なことですが、マスコミは一律ダメ危険!と伝えるだけでなく、いろいろな角度からものを見て伝えてもらいたいものです。

 これから富士山を目指そうと思っている方、慌てて登りにいかず、余裕をもって楽しめる富士登山にできるよう、そこまでのプロセスから始めませんか?最後に楽しかったと思えるように。