熊とガイド

(画像は2024年長野県某所)

2025年は日本全国で熊の出没情報や悲しい事故の情報が多数出ております。
僕の仕事エリア(関東地方、埼玉周辺の山、奥多摩/青梅周辺の山など、上越方面、北アルプス、北海道)でも出没情報が出ています。

先日、「昨今の状況に対して熊対策はどのようにしているか?」という問いがありました。

熊への対策と言われると、僕の中での一番は「動物の気配を感じること」ということで、熊対策では僕にとってはそれがかなり重要なことだと感じています。そもそも山には人間以外の動物がいることは当たり前なので熊だけでなく動物がいるかどうかを気にしながら山にいること、シグナルを見落とさない(足跡や新しい糞など)ことや気配を感じた場合、その後どう行動するか考えながら行動することが山で遊ぶ楽しさのひとつだと感じています。

気配を感じる」などプロっぽいことを書いていますが、今まで幾度も熊に遭遇(目撃)している中で、気配を感じた後に熊に出くわしたこともありますが、多くは全く気配など感じず遭遇(目撃)しています。
それは僕の気配を感じる力が足りないのか?
それとも気配など感じられないのか?
僕がそのどちらかなのかはわかりませんが、気づけないことが多かったとしても僕は気配を感じることを気にしながら山を歩くことが好きだし、それが必要だと感じているのでこの先もそれを続けたいと思うし、そうする姿勢を少しでも伝えていけたらと思っています。

他の対策として考えられることは熊鈴や笛、ラジオを流しながら歩く、複数人でしゃべりながら歩くことなどもこちらの存在を知らせるという意味で有効な手段だと思います。が、これもまた僕個人の登山だと「山では静かに歩きたい」という思いが強く、ラジオを流しながらは論外、笛も熊鈴もよほどでないと持ち歩きませんし、複数で登山をすることもほぼありません。

これまた格好いいことを書いていますが、今年の夏に一人で奥多摩の山に入っていると新しい熊の足跡を見つけました、あれ?と思い立ち止まると、そのすぐ先の藪でガサガサと音がしたのでとっさに「熊に出くわしたらたまらん!」という思いから地面に落ちていた木の枝2本を手に持って大きく振り上げ大声で叫びガサガサ音が遠くに行くまで待ってから通過したことがありました。「静かに登山を楽しみたいんだよ」と思っていても、気配を感じれば大声を出して熊(熊かどうかは見えなかったのでわかりませんが)をおっぱらっているわけです。
だからと言って年がら年中騒いで登山をしていませんし、やはり基本的には静かな登山をしたいのですが、これが仕事でクライアントを山に連れていくとなれば熊鈴や笛の携帯、しゃべりながら、複数人で行動するということで少しは熊との遭遇する確率を下げているのではないかと思います。

他には熊撃退スプレーの携帯でしょうか。
僕自身もスプレーは昨年の北海道登山、今年の知床横断で携帯しました。
今年の知床で、過去に2回熊スプレーで熊を撃退したという方のお話を伺う機会があったのですが、その方が噴射したタイミングは熊がおこなう威嚇突進行動(ブラフチャージ)の時とのことで、これがかなり近くに引き付けてからの噴射をおこなっているようなのです。このような状況になるならともかく(なってもけっこう怖いでしょうけど)、ばったり出くわしてしまった場合や先日ニュースになっていた、秋田大仙市の散歩中の82歳女性が襲われた防犯カメラの映像のように威嚇もなく背後から飛びかかってきている状況でスプレーを出せる余裕などあるのだろうかと疑問に思ってしまいます。
最近山で、それはそれは多くの方が西部劇のガンマンのように熊スプレーを所持されていますが、もし今まで熊に遭遇したことが無い方が初めて見る熊を目の前にして慌てずに使用できるのかな?と疑問に思います。
これまた「ガイドだから確実にできるんだろうな」と誤解されるような書き方ですが僕自身、今まで熊とは遠距離、至近距離で遭遇、目撃していてますが、前触れなく襲いかかってくる熊にガンマンのごとく瞬時にスプレーを噴射することはできないだろうと思います(スプレー噴射するまでのプロセスがあり瞬時には難しい)
それでもしっかりと使い方を学び、練習されている方が持ち歩くならば、熊と遭遇してしまった時に撃退する可能性を高めることができるアイテムではないでしょうか。

僕は山を案内するガイド業を行っていますが、熊撃退人ではないため熊と遭遇しても熊から確実に身を守ってあげることはできません。そもそも熊から確実に身をまもってあげる費用などガイド料に含むこともできません。熊対策に関する知識を提供することはできても僕はあくまで山を案内するガイドですから。

もし登山活動中に熊と遭遇してしまった場合、熊に遭遇したことが無い方よりは、落ち着いて行動できるかもしれませんし、その前に熊の存在のシグナルを見つけたり、動物の気配も感じることもできるかもしれません。それによりその場から事前に離れることができるかもしれません。熊スプレーを持参している時、様々な条件が重なればスプレーで撃退ということもできるかもしれません。とはいえ相手は僕たちより力の強い可能性が高い生き物です。

先日とあるガイドさんがおっしゃったという以下の話を聞き驚きました。
「ガイドという仕事には熊から身を守ってあげることがガイド料に含まれている」
というような内容を話されたというのです…
すごいガイドさんがいるものです。
僕の能力不足なのかもしれませんが、どうやって「確実に熊から身を守ってくれる」のか?とても興味のある話しでした。
どうやって守るかの答えまでは聞くことができませんでしたが。

僕は確実に安全を守りたいとい方は「山に行かない選択肢を持つ」か「熊の生息が確認されていない県の山で遊ぶ」しか無いと思っています。
登山はしたいけれど確実でないなら行きたくないなら、しっかりと「行かないという選択肢」を持つということです。

それでも僕は昨今の状況を踏まえてみても自分の最善策を講じて山に遊びに行きたいと思っていますし、クライアントが同様に山に行きたいと望むならその希望を叶えるべく最善策を考え、講じ、僕が感じていることを少しでも伝え、山遊びへお連れしたいと思います。
それがガイドの仕事なのだと思います。